
歯周病治療
歯周病治療
歯周病は、ひと昔前には「歯槽膿漏症」と呼ばれていました。年を取ると歯がよぼよぼになり、グラグラ揺れて抜け落ちる病気で、老化の一症状のように扱われていました。昨今、医学的な根拠もあり、現代病の代名詞となりうる歯周病や歯周疾患という名称が定着しています。
歯と歯ぐきのすき間から細菌が侵入し、歯肉に炎症を起こしたり、歯を支える骨(歯槽骨と言います)などが溶けたりする病気です。歯を失う原因としては、むし歯より多くを占めています。
炎症が歯肉にみられる状態を「歯肉炎」といい、炎症が歯槽骨や歯根膜(歯の根っこと骨の間にあるクッション部分のこと)まで及ぶ状態を「歯周炎」といいます。
むし歯とは性質が異なり、痛みが無く気づかないうちに進行する特徴があります。歯周病が重症化すると、歯肉が腫れたり、歯がグラグラしたりして物が噛めなくなり、時には自然に抜け落ちることもあります。
病因の一つは清掃不良です。乳歯が永久歯へ生え変わり、噛み合わせがしっかりする頃(二十歳前後)からお口の中全体的な歯間・奥歯周りのお手入れ不足が継続すると、歯を支える歯槽骨が徐々に吸収し始めます。そのため、二十歳前後から中高年になるまでの間にほとんど症状なく進み続ける病気でもあります。
また、歯周病は歯を失うだけでなく、全身疾患と深い関わりがあります。歯周病菌が口の中から血流を介して全身へめぐることで、糖尿病や動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞、妊婦の方では早産などの疾患を引き起こす可能性が危惧されています。高齢者の方でも、お口の歯周病菌が少しずつ気管支や肺まで届き、誤嚥性肺炎を引き起こしたりと、健康寿命をも脅かします。
ですから、正しい歯磨きを中心とした毎日のセルフケアはもちろん、歯科医院での定期健診でお口の検査を踏まえたクリーニングを受け、歯周病の予防や治療を心がけましょう。
こんな感じの記憶はありませんか?
このような症状がある方は、歯周病である可能性があります。歯みがきを中心としたセルフケアで改善しない場合、お早めの受診をおすすめします。
主な原因は、プラーク(歯垢)の中にある微生物である歯周病菌です。歯と歯ぐきの間や歯ぐき周りに付着するプラークは、多くの種類の細菌が増殖してかたまりとなったもので、歯みがきが不十分だったり、糖質食品を過剰に摂取したりすると、細菌がネバネバとした物質を作り出し、バイオフィルムという粘膜性の膜を形成します。歯の表面のバイオフィルムは、毎日の歯みがきと定期的な歯科受診によるクリーニングによりきれいに取り除かれコントロールできます。歯と歯ぐきの間に深いポケットができてしまうと、十分なクリーニングが行えず、細菌が作り出す毒素を歯周組織にふりまき、継続的な炎症反応が起こります。この状態が歯周病です。
プラークは取り除かなければ唾液の成分により硬くなり、歯石へと変化します。それが歯の表面に強固に付着します。プラーク(歯垢)や歯石は歯周病菌の格好の住家となります。歯石はホームケアとしてのブラッシングだけでは取り除くことができません。歯科での専門的なクリーニングが必要となります。
直接の原因は細菌の塊であるプラークです。これに加え、歯周病になりやすくなったり、悪化させたりする口腔内の環境や生活習慣が複雑に絡み合い、重複することで、発症リスクが高まります。具体的に言うと、口の中の清掃不良に加え、喫煙などの生活習慣、過度のストレス、体調不良による抵抗力の低下などがその危険因子となります。
プラーク(歯垢)中に存在する歯周病の原因となる微生物である歯周病菌です。
歯周病予防は、適切な歯みがきでプラークを取り除くことが基本です。そして、規則正しい生活習慣は、歯周病を寄せ付けないためにも大切です。また、生まれつき歯周病にかかりやすい体質の方もいらっしゃいますので、ご自身の体について知り、対策を講じることも肝要です。
歯周病は以下のように進行していきます。
健康な状態
薄いピンク色の歯肉で、歯と歯ぐきのすき間(歯周ポケット)がなく引き締まっています。
歯みがきの時に出血しません。
ちなみに、このすき間の深さは2㎜程度がおおよそ健康的とされています。
軽度歯周病
歯ぐきに炎症が起き、歯周ポケットが少し深くなります。
痛みはまだありませんが、ブラッシング時や硬いものを食べると出血することがあります。
歯と歯ぐきのすき間(歯周ポケット)の深さは2~3mm程度で食渣やプラークが挟まりやすくなります。
見た目の状態
歯ぐきが赤みを帯びて少し腫れぼぼったいです。歯と歯肉との間にプラーク(歯垢)がたまります。
中度歯周病
歯ぐきだけでなく、歯を支える顎の骨(歯槽骨)や歯根膜(歯の根っこと骨の間にあるクッションのこと)にも炎症が進んだ状態です。
炎症が継続化し骨が溶けはじめます。歯周ポケットが深くなり、歯を支える骨が溶けると歯がグラつきはじめます。口臭もあり、歯が浮いたような感じもあります。歯周ポケットの深さはおおよそ4~7㎜くらいになり、炎症が原因でポケットの中から滲出液や、時に少量の出血や膿が出てきます。
見た目の状態
全体的に歯肉が赤く腫れあがり、変色がひどくなります。
重度歯周病
歯根を支える歯槽骨がほとんど溶けています。
歯周ポケットがかなり深くなり、歯根の先の方まで骨が溶けることでさらにひどくなります。食べかすがポケットの深部で腐敗し、口臭がきつくなり、膿も出続けます。放っておくと歯が抜け落ちてしまいます。
見た目の状態
歯肉は赤紫色で、歯と接している歯肉がさらに腫れあがります。腫れた歯ぐきを軽く押しただけで、明らかに白い膿が目に見えます。歯と歯の間が広がり、食べ物もよく詰まるようになります。
近年の研究では、継続的に歯周病にかかっていると、様々な全身疾患にかかるリスクが高まることがわかってきました。歯周病のある部位には、歯周病菌とその菌が作り出す毒素や炎症のある部位で作られるプロスタグランジンやサイトカインなどの化学伝達物質が存在します。これらが歯肉の毛細血管を通じて全身に搬送されると、脳卒中(脳梗塞)、心臓血管疾患、糖尿病の悪化などを引き起こすリスクを高めるといわれています。唾液中の歯周病菌を含む細菌が、誤って気道から気管支や肺に入ると、気管支炎、誤嚥性肺炎の原因にもなります。また、妊婦の方においては、早産や低体重児出産のリスクも高くなるため、出産前の歯科検診はとても大切です。
歯周病と全身疾患は相互作用で良くも悪くもなります。したがって歯周病の予防や治療は、全身の様々な病気の予防や治療につながることにもなり、健康的な生活を送るためにとても大切なのです。
歯周病の治療は、歯科医師による問診と検査・診断を経て開始されます。内容は「歯周基本治療」「歯周外科治療」「口腔機能回復治療」「メインテナンス※」にわけられ、段階ごとに再度の歯周基本検査(再評価)を挟んで治療効果を確認します。
歯周病の原因は、歯に付着したプラーク(歯垢)であり、プラークを除去しなければ歯周病の進行を食い止めることが出来ません。そこで治療では、歯周病の元となるプラークや歯石を取り除く「歯周基本治療」に主眼が置かれます。患者さんご自身が行う「セルフケア(毎日の歯みがき)」と、歯科で行う専門的な「プロフェッショナルケア※」の両軸で進めます。
「歯周基本治療」は、軽度の歯肉炎の段階でも、中度、あるいは重度に進行している場合にも共通する治療です。歯肉炎や軽い歯周病であればプラークや歯石を取り除くプロフェッショナルケアを主体とした歯周基本治療だけでも治ることもあります。一方、歯周基本治療だけでは取り除くことができない歯肉の奥(歯周ポケット内)にたまった汚れなどには、「歯周外科治療」が検討されます。
治療後、再検査で改善が確認できれば、メインテナンスに移行します。改善が認められない場合は再治療というように、治るまで治療と検査を繰り返します。
※メインテナンス:むし歯や歯周病などを再発させず、口内の健康な状態を維持していくための定期健診的な治療のことです。
※プロフェッショナルケア:歯科医師や歯科衛生士が専門器具や機械を使っておこなう医療としてのクリーニングのことを言います。
歯周病の歯周基本検査
はじめに、お口の中の状態や歯周病の進行度合いを診察します。プラークの付着状態、歯肉の炎症度や出血、歯周ポケットの深さ、歯の動揺度などを調べる「歯周基本検査」とともに、レントゲン撮影で目に見えない歯の周りの歯槽骨の状態を確認します。痛みがあれば応急処置をしたり、お薬を処方したりして痛みを取り除きます。
歯周基本治療
歯みがき掃除指導(ブラッシング・フロッシング指導)
歯垢(細菌性プラーク)を歯から取り除くことは、治療を的確に進めるうえでとても大切なことです。そのためにはご自身でしっかりと口の中の管理をするという意識を持つことが重要になります。歯みがき(歯垢掃除)指導では、現状のブラッシングでどこが磨けていないのかをよく理解していただいたうえで、効果的なブラッシング方法を学んでいきます。
歯石の除去(スケーリング・ルートプレーニング)
歯科医師、歯科衛生士によってプラークや歯石などを取り除くことをスケーリングといい、これにより歯みがきでは取り切れない汚れを超音波スケーラーやキュレットスケーラーなどの専門的な器具を使用して取り除きます。ルートプレーニングは、歯周ポケットの内部歯根の表面表面に付着したプラークや歯石を除去し、仕上げに歯の表面をなめらかにみがいて、汚れの再付着を防ぐ治療です。
歯周検査(再評価)
最初の診察からの改善状態を、再度、歯周基本検査を行い確認します。この結果をもとに次に継続して行う治療を検討します。
歯周外科治療
歯周基本治療の後の再評価で、歯石が歯周ポケットの深部に入り込んでいて除去できていない場合は、歯周外科(フラップ)手術を行うことがあります。麻酔後、歯ぐきを切開し、歯根を露出させて、歯周ポケットの奥深くにこびりついている歯石を取り除きます。また、お手入れのしにくい歯ぐきの形をきれいに整えて、歯みがきしやすくする不良肉芽除去手術や歯肉整形術などを症状に応じて施術します。
ここで、注意いただきたいことがあります。お体に持病を抱えていらっしゃる方の中で、特に高血圧症、脳梗塞や心筋梗塞の既往があり、血液がサラサラになる薬を服される方、骨粗鬆症治療で定期的な注射を接種したり、薬を服用される方は、ご持病の担
当主治医様よりご自身に対する注意事項を仰いできていただきます。その上で、体調をみながら施術します。
口腔機能回復治療
歯周病治療によって改善が見られた場合、その治った歯に対して被せ物(歯冠)や、ブリッジ、入れ歯(義歯)などを装着し、噛み合わせのバランスを図りながら噛む力や食べる力を向上させます。
メインテナンス
治療が終わった後は、メインテナンスが必要です。歯周病は再発しやすい病気で、場合によって再度問題が見つかり、治療が必要となることもあります。メインテナンスは、定期的に口腔内や歯の周りの組織を診察し、クリーニングを受けます。口腔内を良い状態に保ちながら、歯周病の再発を防ぐものです。ご自宅でのセルフケア(正しい歯みがき)はもちろんですが、併せて3~4か月に1度の定期健診治療をお勧めしています。
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